8月6日(土)午前に大分県内の高校生に向けてアートNPO“Land Art Generator Initiative”(以下、LAGI)によるオンライン講演会を行いました。この講演会は通常2回の講演会に加えて特別に開催したもので、LAGIによる日本での講演会は初めての取り組みとなりました。
冒頭にLAGI JAPANから大分の脱炭素化の現状について紹介がありました。大分県は「県内GDPあたりのCO2排出量」が全国ワースト1位かつ、再エネルギー自給率は全国2位であることを知っていましたか?といった問いかけがありました。回答者のうち55%はどちらも知らなかった、27%は再エネルギー自給率のことは知っていたと回答しました。
その後、LAGIの共同創設者である、ロバート・フェリー氏(建築家)とエリザベス・モノアン(アートディレクター)によるLAGIの取り組みについての英語での講義がありました。日本語での字幕を入れたビデオに、高校生たちが前のめりで聞き入っている姿が印象的でした。この講義では、LAGIがカーボンニュートラルな社会を実現するために、国際デザインコンペを開いていること、そのコンペではその土地ごとに自然景観に馴染むアート作品でかつクリーンな電力を生み出す太陽光パネルなど、人々の記憶に残るような体験を生み出す作品を表彰していること、そして実際に建設しているものを紹介していただきました。
最後に、同時通訳者を入れての質疑応答を行いました。「LAGIを大分に呼ぶには?」「カーボンニュートラルのために個人で取り組めることは?」「太陽光パネルの下に生物が住む未来は予想されるのですか?」など、たくさんの質問が寄せられました。
LAGIからの結びのメッセージをいただきましたので、掲載いたします。
今後10年の間に、高校生の皆さんは、自分の意思決定が私たち全員をポジティブな未来へと導くようなキャリアを歩むことになるかもしれません。今回の講義が皆さんの思考を刺激し、再生可能エネルギーや他の持続可能なテクノロジーを自分たちの街や風景のデザインに取り入れよう、という試みが始動することを期待しています。
LAGI JAPAN
また、回答しきれなかったものも加えて質疑応答の一部を公開いたします。
●質問1:カーボンニュートラルの実現には、どのような技術革新が必要で、どのようなことが期待されるのでしょうか。
実は、カーボンニュートラルの実現に必要な技術革新は、既に数多く存在しており、追加的に必要ではありません。多くの大学や研究団体は、現在ある技術だけで自然の環境容量と人間の調和を実現するための技術的な道筋を立案しています。もちろん課題は無い訳ではなく、技術的な道筋における課題の1つは、変動的な再生可能エネルギー源を既存の電力網に容易に統合できるようなエネルギー貯蔵の進化です。
私たちは、最も重要な技術革新は、おそらく機械技術的ではなく、「社会技術的」なものだと考えます。具体的には、メディア、教育、世論形成等です。エネルギー転換を社会全体で支援し、化石燃料から自然エネルギーへと投資をシフトさせる政治的意志を構築しなければなりません。
●質問2:将来、世界で活躍するために、高校で学ぶべきことは何だと思いますか?
システム思考と生態学のレンズを通して、アートとデザインについて学ぶことでしょう。また、ストーリーテリングの芸術や、批判的に考える思考法、私たちが時に当たり前だと思っている社会システムの構造を検証することも重要です。人工知能に支配された経済社会では、創造性と戦略的なシステム思考が最も評価されるスキルになるでしょうから。(これらは、機械学習によって習得される可能性が低いものです)。
より良い未来のために自分自身のビジョンを描き、同時に多くの課題に直面することを知り、それを克服するために必要な柔軟性と妥協性を精神的に備えておくことも若いうちが良いです。
●質問3:今後、日本の観光産業が世界から注目されるためには、環境や自然をどう生かせばいいのか?
LAGIでは、文化発信地を兼ねた再生可能エネルギー発電所の実現に取り組んでいます。クリーンエネルギー技術をメディアとし、公共空間にアート作品を製作することで、都市はサステナブル志向の観光客を惹きつけることが可能となり、また持続可能な開発へのコミットメントを宣言することにもなります。
観光業界のトレンドとして、旅行者はより学びのある体験を求めています。これからは、一日中プールサイドで過ごすよりも、現地の文化や技術を学んで環境活動に参加し、CO2吸収や排出量の抑制に貢献することが重要になるかもしれません。「リジェネラティブ・ツーリズム」と呼ばれるこの新しい手法は、地域がサステナブルな旅行地を造ることで、観光収入を得るのと同時に、生態系の回復・再生に向けてのプログラムを開発に織り込むことを意図しています。観光客が受動的に地域に過ごすのではなく、環境保全の担い手として積極的に参加していくのは、これまでの観光とは異なるでしょう。
ちなみに、大規模なアート作品が、観光客を呼び込み、経済効果を生み出す原動力になることは証明されています。例えば、オラファー・エリアソンの「ニューヨーク・ウォーターフォール」プロジェクトは、建設費1,550万ドルをかけたパブリックアート作品です。この作品はたった4ヶ月しか設置されませんでしたが、その4ヶ月の間に5,350万ドルの経済効果をもたらしました。もし同様の大型作品が、何千メガワットものクリーンな電力を街に供給し、次世代教育の場として何世代にもわたって存在し続けたら、どういう未来が期待できますか。前向きな気持ちで想像してみてください。
LAGI JAPAN
また、今年はLAGIのデザインコンペが開催されていますので、気になる方はぜひご覧ください。
https://landartgenerator.org/competition2022.html
今年度はあと2回、オンライン講演会を実施いたします。9月4日に迫った第一回は脱炭素について、第二回は宇宙についての講演です。ぜひご参加ください。